キルギスにいると、道につばを吐いている男たちをよく見る。あるいは、つばではなく痰を吐いている場合もあるかも知れないが、とにかくペッ、ペッと吐いている。
日本から来たボランティアの中には、そういう行為に嫌悪や軽蔑を抱いて、そういうことをやっているのを民度の低さと見て、この国の発展を妨げている根本にあると話す人もいたが、そうとも言い切れないだろうと私は思う。
田舎の方へ行くと舗装されていない道がほとんどである。そういうところでは車が走るたび、あるいは風が吹くたびに土ぼこりがたつ。そういうところだとのどがいがらっぽくなって、痰がよく溜まる。それで、ペッ。(ただし、この説明では、男ばかりがつば・痰を吐くのは理屈に合わない。女がそういうことをするのは、キルギスでも「はしたない」と思われるようである)。
舗装されていない道だから、つばや痰を吐いても、汚いものではない。つばだって、痰だって自然物である。つば・痰が汚い物に見えるのは、都市化された場所だからだろう。シンガポールではつば・痰吐きは罰金の対象になるそうであるが、なるほど、シンガポールのような都市ならば、つば・痰は汚い物と見られるのは当然だと思う。
キルギスの首都ビシュケクでもつば吐きは見かけるが、村で暮らしていた時よりも少ない気もする。100万人都市で、舗装率が高くなると、人の意識も都市的なのであろうか。それでも、日本で道を歩いている時よりも、つば吐きをする人、あるいは吐かれたつばの後を見ることは多い。
さて、キルギスに来てから、私も路上へのつば・痰吐きをするようになった。「えぇ~、サイテ~」と言われても仕方ないことだが、申し開きをするならば、一つは上記に書いたように、痰がよく溜まるから吐くのである。日本にいた時は痰なんて路上に吐かずに、ティッシュに出すか、それができなければ飲み込んでいた。しかし思うに、痰というのは、体の内部に入らせないようにごみが溜まった物だろうから、飲み込むというのはよろしくないと思うのだが、どうなのだろうか。
私がキルギスでつば・痰吐きをするもう一つの理由は、ここの文化で人々がやっていることはやっておく、ということである。これは防犯のためにと考えている。
幸いなことに、キルギス人と日本人の顔つきは割と似ている。肌の色や目の色が異なって、すぐに「異人」と分かる国もあるが、キルギスではそういう面ではすぐには気づかれない。ただ、それ以外のところで、例えば服装や持っているかばんなどでキルギス人でないと気づかれる(もちろん言葉を話せばすぐに分かる)。
日本人であると分かったからどうということもないのだが、その土地の者ではないと見ると付け込もうという輩は、どんな場所にもいるのである。そういう輩のターゲットになりづらくするために、その国で買った物を着る(日本の町で見たらきたならしい印象でも)、歩き方、振る舞いもその国の人っぽくやってみる、というのが自衛策になる(と私は思っている)。
まあ、だいぶ強引な理屈をこねている感もあるが、ともかく、この国ではマナー違反には見られないつば吐きなのであるが、日本に帰ってからはそうもいくまい(キルギスのボランティアでさえ、それを嫌がる人もいたわけだしね)。痰壺でも持ち歩くか…。
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