協力隊の職種の一つに「日本語教師」というのがある。派遣国で、日本語を学ぶ学生に指導をする仕事で、大学に配属されることが多いようである。もちろん、日本語教師は協力隊だけの仕事ではないし、民間で派遣される人、生徒と個人契約で教える人もいる。さらに、外国で教えるだけでなく、日本国内で仕事をしている人も多い(この辺りについては、荒川洋平『もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら 』など参照)。
教える場が大学となると、たいていはその国の首都かそれに準ずる規模の町となるのが通常である。
さて、所かわって、とある協力隊員が配属された村。外国人を見るのはちょっと珍しい。まして村に住み着く外国人となるとなおさらである。
村の子供たちは、面白半分に「ハロー」とか、相手が東アジアっぽい顔つきであれば「ニーハオー」「コニチワ」とか言ってみたりする。こういう子供たちのほとんどは、からかいというのでもないが、外国人と見ると何かちょっと気になるところがあって、聞きかじった外国語を言っているだけである。
しかし、中には日本語に興味があって、あるいはなんでもいいから外国語に興味があって、その外国人からその人の国の言葉を習ってみたいと思う子供も現われる。「日本語を教えてくれる?」と外国人である協力隊員に話しかけてくる。
買い物に行った店番の子に、食事に行ったカフェのウェイトレスの子に、あるいは道ですれ違いざまに声をかけられるから、声をかけられた協力隊員のほうはいささか意表を突かれた感は否めない(しかし、そういうことを何度も経験すううちに、彼もそういう子供たちのあしらいを覚えたようである)。
そんな中から、先着順というか、無作為というか、日本語レッスンを願い出たうちの何人かに日本語を教え始める展開に…。ある隊員は高校生に教えている。またある隊員は小学生に教えているらしい。繰り返しになるが、これらの隊員は「日本語教師」が本職ではない。別の仕事をするために、その村に来ているのだ。そうではあるが、行きがかり上、村で日本語を教えることになったのである。
本職の日本語教師には到底及ばぬ日本語指導。彼らは皆、「自分ごときが日本語を教えてよいのかしらん?」という責めを感じつつ、村の子供たちの要望に応えるうちに「日本語の先生」になってしまったのである。聞くところによると、K国ではそんな行きがかり日本語教師が、本職日本語教師の目を逃れるかのように「裏日本語教師会」なるものを作っていると言う…。
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