茨木のり子の詩、「自分の感受性くらい」に続く詩の紹介。
祝婚歌
吉野弘
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい
この詩は、確か、作者の吉野弘氏が、姪御さんか誰かの結婚式に送った詩だったはずだ。だから「祝婚歌」。しかし結婚する人にも訴えるものがある。
私の好きなフレーズは、「二人のうちのどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい」。
「ずっこけ」なんて言葉、最近は聞かないねぇ。こんなマジメっぽい詩の中に、このフレーズを入れているのは、前段で「立派すぎないほうがいい」と言っていることを、自ら実践している感じもある。
「正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと 気付いているほうがいい」。そうそう。“正しいこと”を言っている時って、自分に陶酔するから、相手が傷ついていることなんて見えなくなりがちだ。自分が言っていることが“正しい”かどうかが重要なのではなく、“自分が正しい”と信じて疑わない所に落とし穴があるんだろう。
という訳で、私はこれまで以上に「立派さには色目を使わず」「ふざけて」「ずっこけ」ながら生きて行くよう、精進するつもりである。4649!
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