これを書いている今は、日が替わって6月1日深夜。今日あたりが新月にあたっているようである。
村には街灯が少ないから、月明かりがないと外はほんとうに真っ暗である。夜、何も見えないというのを、日本の町で暮らしている者には分からないかも知れないが、本当に真っ暗である。
こういう時に一番嫌なのが、夜のトイレである。こちらではトイレは外にあるのが普通だから、用を足すためには暗闇の中を行かなければならない。もちろんライトはあてながら行くが、ライトで照らす所以外は何も見えず、うっすらと見える木の枝などが、かえって不気味さを増す。
こういう暗闇に身を置くと、「その木の陰に、不審者が斧でも持って潜んでいるんではないか」などと余計な想像をしてしまう。ホラー映画のせいで、そういう想像をしてしまうのか…。
用を足している時も、後ろから襲ってくる奴がいるかもと心配で、背後を気にして、半身になりながらである。書いていると笑えるが、その際中はハラハラしているのであるから、笑わずにいただきたい。
さて、便所への往復の間、家の近く・遠くから犬たちの吠える声が絶え間なく聞こえてくる。これは新月の夜に限ったことではなく、どんな時でも犬の吠え声が聞こえぬ夜はない。日本の都会では、犬は室内飼いするのが一般的になっているように思うから、夜中に犬が吠えるのも昔ほど耳にしなくなった。しかし、ここでは室内飼いなどする家はないから、犬たちは外で「番犬」としての務めを果たして吠えるのである。
ま、犬ならば正体も分かっているから、そう怯えることもないが、もしこれが他の動物の鳴き声であったら、さぞ不気味であろう。その時、私は、かつて火の利用方法も知らなかった我らのご先祖の人類を思う。彼らにとって、夜は恐怖以外の何ものでもなかったはずだ。
牙も爪も、際だって武器といえるほどではなく人類にとって、暗闇に響く他の肉食獣たちのうなり声・吠え声は、ホラー映画の恐怖どころではなかったと思うのだ。
たかが便所への用便であるが、こんな深い(?)思索に到る、新月の闇夜である。
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