2011/11/02

TPP加盟論議と国外脱出

日本の外交・経済政策の中で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への加盟の是否が大きな案件になっている。TPPとは何のことかもわからず、ぼんやりしていたのだが、こう連日「TPP」の文字がニュースに出てくる状況で、知らないでは済まされない。
TPPに加盟することで、日本の経済はとてつもない国際競争にさらされ、数年~十数年後にはその競争の中で破れて、日本経済は農業も工業も金融も、その他サービス業も、ほぼすべての分野で没落してしまうのではないか、という危惧を感じる。
しかし、政界・財界にはTPP加盟を推進しようという動きが強いようで、ここのあたりが私には不可解であると同時に、不気味で恐ろしい。
で、これまでにも何度かこのブログで引用したことのある内田樹(たつる)氏のブログに、腑に落ちるものを感じたので、今回も一部を引用する。
雇用と競争について (2011.10.20)
  • 当節はやりの「グローバル人材」とか「メガコンペティション」とかいうことを喃々と論じている人たちはおそらく「この一億二千万人は日本列島で生活するという運命から逃れることはできない」と言い切ることができまい。
    「競争で勝ち残らなければひどい目に遭う」という命題を彼らは国際競争についてだけでなく、実は国民間の「生き残り競争」にも適用しているからである。
    「競争で勝ち残れない日本人はひどい目に遭ってもしかたがない」と彼らは思っている。
    あれほど「競争力をつけろ」とがみがみ言い聞かせて来たのに、自己努力が足りなかった連中にはそれにふさわしい罰(列島からでられず、貧苦に苦しむという罰)が下るのは「しかたがない」と思っている。
    そういう人たちは別に何のやましさもなく、日本列島を出て、愉快に暮らせる土地に移って行くだろう。
    下村は逆に「その手」を封じて、経済について考える。
    「まずオレが食って行くためにどうするか」ではなく、「まず一億二千万が食ってゆくためにどうするか」を考える。
    話の順番が違うのである。 生産性を上げなければ国際競争力はつかない。
    生産性を上げるためには人件費を最低限まで抑制しなければならない。
    だから、「生産性が高くなればなるほど、雇用機会が減少する」というスパイラルが起こる。
    (略)
    「生産性を上げる」というのは端的に「人件費コストを減らす」ということである。
    だから、付加価値生産性の高いセクターでは、雇用はどんどん減る。
グローバリストを信じるな (2011.10.25)
    • 「生産性の低い産業セクターは淘汰されて当然」とか「選択と集中」とか「国際競争力のある分野が牽引し」とか「結果的に雇用が創出され」とか「内向きだからダメなんだ」とか言っている人間は信用しない方がいい、ということである。
      そういうことを言うやつらが、日本経済が崩壊するときにはまっさきに逃げ出すからである。
      彼らは自分のことを「国際競争に勝ち抜ける」「生産性の高い人間」だと思っているので、「いいから、オレに金と権力と情報を集めろ。オレが勝ち残って、お前らの雇用を何とかしてやるから」と言っているわけである。
      だが用心した方がいい。こういう手合いは成功しても、手にした財貨を誰にも分配しないし、失敗したら、後始末を全部「日本列島から出られない人々」に押しつけて、さっさと外国に逃げ出すに決まっているからである
      「だから『内向きはダメだ』って前から言ってただろ。オレなんかワイキキとバリに別荘あるし、ハノイとジャカルタに工場もってっから、こういうときに強いわけよ。バカだよ、お前ら。日本列島なんかにしがみつきやがってよ」。
      そういうことをいずれ言いそうなやつ(見ればわかると思うけどね)は信用しない方が良いです。
      私からの心を込めたご提言である。
是非、本文全体も読むことをお勧めしたい(私のブログを読む暇があったら、内田樹氏のブログを読まれるほうが余程よい)。
上記のブログは、TPP加盟推進の論理を理解するのに役に立つと同時に、私自身、痛いところを突かれた気がした。「日本がダメなら、外国で暮らせばいいじゃん」という発想が、自分の中のどこかに無かったと言えば、それは嘘のように思ったからである。
もちろん、私は高級外車を乗り回し、日本国外に別荘を所有するような「勝ち組」ではない(と断るまでもない)。だが、これまで日本以外、それも発展途上国という日本よりもはるかに物価の安い国で生活した経験から、「日本で生活できなくなったら、物価の安い国へ行けばなんとかなるんじゃないか」と考えたことはある。
内田氏はそういうケースについては書いていないが、国外脱出を発想している点では同じように卑怯であると、私自身は受け止めた。余談だが、このように、内田氏の著述物を通して、自分の考えをひっくり返されることが何度かある。氏の書いたものを読み続ける所以である。
TPP加盟推進派は、加盟によって発生する国益を強調するが、本当にそのシナリオ通りになるのかどうか。成功・勝利のシナリオと同時に、失敗・敗北のシナリオも想定しておくべきだろう。もちろん、反対派も同様である。加盟しなかった場合の成功シナリオと失敗シナリオの両方を提示するべきだ。加盟しなければ、そのこと自体は現状と変わらないが、他国の市場に参入できないなどの機会喪失という形の損害が考えられるからだ。
私の「国外脱出計画」にしたって、日本経済が没落した後に、他国へ移住しようとしたって、その時に日本円の価値が今と同じだとは限らない。今は発展途上国として、経済面では日本の格下にある国々が、十数年後には日本を追い越している可能性もある。
これはグローバリズムという潮流も併せて考えなければならないが、いつまでも「発展し続ける経済」を前提にしていては、我々はもうどうにも立ちゆかなくなりつつあるのではないか。今の豊かな生活よりは縮小せざるを得ないが、まあそこそこは喰っていけるというレベルで維持安定していかざるを得ないのではないか。そこの覚悟が、私も含めて日本人はまだ持てないでいる。



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